広重の「田浦の里」
安藤(歌川)広重は寛政9年(1797)~安政5年(1858)に活躍した浮世絵師の第一人者である。
作品には、「武相名所旅絵日記」をはじめ、一躍世に名をなし不動の地位を確立した保永堂版の「東海道五十三次」や「東都名所」、「近江名所」、「木曽街道六十三次」、「名所江戸百景」などの数々の名作がある。
嘉永6年(1853)広重は三浦半島にも足を運び、「武相名所旅絵日記」に「大津」、「浦賀総図」、「三浦の郷」、「毛見(逸見)の山中風景」、「田浦の里農家に休足」と「浦賀道.田浦山中」などを描いた。「田浦の里農家に休足」の絵は、4人旅の折の絵で、田浦の農家にひと休みしたとき、主人が「記念にご一筆を」と紙を出すのに、心安く矢立の墨を使って筆を走らせているようすが描かれ、ほのぼのとした温かいものを漂わせている。
眺めのすばらしい十三峠は、広重も描いている。「浦賀道田浦山中」は古道の浦賀道をたどり、昼なお暗い難所の山道を越えて十三峠の山頂に立ち、眼下に繰り広げられた風光明媚の眺望、遠くつらなる房総の山々に目をうばわれ足をとめて描かれた絵である。